カワイコンサート2023　太田 糸音 ピアノリサイタル（仙台公演）開催レポート

　4月26日(水)18:30より、太田糸音ピアノリサイタルが「日立システムズホール仙台」にて、開催されました。あいにくの春雨にもかかわらず会場には多くのお客様が来場され、前年、同会場で行われた第8回仙台国際音楽コンクール第3位を受賞された、太田氏の再来を待ち望んでいました。

　前半1曲目は「ブラームス6つの小品Op118」。第1曲「間奏曲」小品全体の核となるような、凛とした音を響かせていました。第2曲「間奏曲」静かな流れですが、内声の響きが豊かで、ふくよかな音楽を醸し出していました。第3曲「バラード」決然とした音とゆるぎないリズムで、エネルギッシュな演奏。一転して中間部は、緊迫感が解け、美しいゆれに身を委ねられる心地よさ。その場面転換が素晴らしかったです。第4曲「間奏曲」カノン形式のそれぞれがメロディラインをきわだたせたり、時には寄り添い、イメージをふくらませられました。そして、第2曲、第4曲共に、慈愛に満ちた音色を聴かせる場面があり、聴いている人の心に温かさが伝わり、幸せな気分にさせて下さいました。第5曲「ロマンス」自然豊かな情景が目に浮かびました。随所にちりばめられたトリラーは清澄で美しく目を見張りました。第6曲「間奏曲」自然の厳しさ、絶望感、さまざまな悲痛さを、音色をモノトーンの彩りに変えて、又、音域もかなり動いているのに、それを感じさせずに、静の世界に徹していて、その表現力の巾の広さとそれを可能にするテクニックに、感嘆しました。                                                                  
2曲目は「リストバラード第2番ロ短調S.171」曲全体を通して、技巧的にも、表現的にも、左手が素晴らしいピアニストだと感じました。ですので、右手も自由自在、このバラードは喜怒哀楽と一言では言い切れない感情が渦まいていますが、次はどう来るのか、と固唾をのんで聴き入っていました。太田氏の、時折みせる、ピュアな表現が、この曲の持つ重たさを緩和し、魅力的なまとまりに、なっていました。                                                              
後半1曲目は「シューマン子供の情景Op.15より7曲」各曲の特徴がしっかりと提示され、且つ美しい音で情感豊かに表現されていました。第1曲「見知らぬ国と人々について」は、減７の和音が美しく丁寧な演奏。第2曲「不思議なお話」は、符点音符とレガート部分の対比が明確で、楽しい演奏。第3曲「鬼ごっこ」は、SfPの切りかえが絶妙でした。第7曲「トロイメライ」は一点のくもりもない純粋無垢な演奏。第10曲「むきになって」は、シンコペーションの楽しさと相反するそっけなさが子供の特徴をよく表しているようでした。おしまいの３音なしの５°和音の空虚さが、緊張とも弛緩とも感じとれるミステリアスな音空間に誘われました。第12曲「眠りに入る子供」の同じ音型を響きを次々変化させ、解決しない終止から次の曲へと入っていくタイミング。第13曲「詩人は語る」の小節線のない部分は、自由でありながら、この曲へ対する崇敬を感じさせる演奏等、1曲1曲よく考えられた、興味深い演奏でした。最後の曲は「ショパン12の練習曲Op.10全曲」テクニックの艶やかさ、華麗さ、調性による曲想や音色の変化、どこをとっても、大変魅力的な演奏でした。非常に驚嘆したのは、12曲の構成力でした。例えば、第4番Con fuocoの緊迫感のある曲の後の第5番「黒鍵」brillante。終止、スピードと華やかさで疾走するピアニストが多い中、スピードとエネルギーを保ったまま、左手の跳躍音程で、限界まで時間を使って、ふくよかな音を創り出し、緊迫感を緩和し、観客がゆったり聴ける空間を創り出す等、12曲を通して、効果的な緩急のタイミング、観客へのアプロ―チ、音空間が素晴らしかったです。その太田氏の演奏に呼応するかのようにSK-EXは輝いていました。前年のコンクールで使用した楽器ということで、尚更思い入れが深いと、アンコールの時におっしゃっていました。
 
アンコール曲は2曲「グリーグ抒情小品集第１集Op.12よりアリエッタ」「グリンカ＝バラキレフひばり」。
愛らしい曲と、「ひばり」は、サウンドツリー（カワイ音楽教室オリジナルの新しい教育ピアノメソッド）にも入っている曲なので、バラキレフの変奏で子供達も興味深かったと思います。
 
太田氏の演奏は小説を読んでいるようなワクワク感があり、次の場面への期待感ありと、楽しい時間を共有することができて、幸せな一夜でした。                                                      
                                                                  
                                  　　　　　　　　　　　　　　　　　　                                                     仙台北事務所　講師　澤田美紀