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カワイコンサート エヴァ・ポブウォツカ ピアノリサイタル レポート

2023年10月24日(火)にエヴァ・ポブウォツカさんをお迎えし、埼玉県さいたま市のRaiBoC Hallにてカワイコンサートが開催されました。
ここは昨年4月に移転オープンされたばかりのホールで、SK-EXが常設されていることでも話題となりました。調律は小野寺仁志さんです。
アフターコロナになりつつある今、生の演奏を欲する人々の熱はいよいよ高まりを続けています。今回のコンサートも開場前には長蛇の列をなし、ホール内は多くのお客様であふれ満席の状況でした。
そのような熱気の中、期待高まる視線の先にエヴァ・ポブウォツカさんは登場しました。
前半はバッハから始まるプログラム。(「パルティータ第5番ト長調BWV829」「イタリア協奏曲ヘ長調BWV971」)客席からの熱い拍手に迎えられた後、静かに椅子へと向かい演奏へ…。その流れがあまりにも自然体であることに驚きと感銘を受けました。
奏者からのメッセージの中に「~常にバッハの音楽から私の一日がスタートし、日々の人生に意味を与えてくれます」とあります。まさにそのとおりで、まるでご自宅にお邪魔して演奏を聴いているかのような錯覚を覚えました。生活をするように、呼吸をするようにバッハを奏でる。日常的であり且つとても特別な空間に、体の隅々まで満たされました。
次のシューベルト「楽興の時 第6番D780Op.94-6」では、やはりこちらも自然で心地よい音の刻みから始まり、しだいに音の深みが増していく響きでした。心に溶け込む美しい音色、情景が浮かぶ想像的な音楽。決して華美にはならず深い情愛を感じる演奏でした。
前半最後のプログラムは、ワーグナー=リスト「イゾルデの愛の死」。
それまでの空気感を一切断ち切るかのように曲の始まりを告げる和音、続く悲愴感溢れるメロディーの調べに客席は一気に歌劇の世界へと引き込まれました。深い悲しみと無上の愛を表現する10本の指は繊細で奥行きがあり、ShigeruKawaiの特性を存分に引き出す演奏に「すばらしい!」の一言しか出ません。
まるで劇場での一幕が目の前で繰り広げられる、プロジェクションマッピングのような立体的な空間の流れを感じました。
休憩をはさんだ後半はオールショパンプログラム。
「2つのノクターンOp.27-1」では、全体に漂う陰鬱さの中からも次第に溢れる喜びの感情が交錯する様相に、とても力強く心を惹きつけられました。さらに、Op.27-2での甘美な音の戯れは大変美しく、繊細な音の波紋が空間に伝わり頬をなでるような…そのような感覚を覚えました。
次は「ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 Op.44」そして「4つのマズルカOp.17」です。エヴァさんの出身地であるポーランドの民族的な舞曲ですが、その独特な舞踊のリズムをごく自然に演奏されていました。
おそらく幼少の頃より体に染みついているそのリズム感は、自然と演奏に滲み出るのだろうと感じられました。
「即興曲 第1番 変イ長調 Op.29」では、細やかなメロディーの動きがとても軽やかでありながら、落ち着いた余裕のある音の流れを感じました。チャーミングさがありつつダイナミックな部分もあり、抑制の効いたバランスの良い演奏に巧みな技術を感じました。
そして空気が途切れないまま演奏が始まったプログラム最後の曲目「バラード第3番 変イ長調 Op.47」
即興曲から同じ調性ということもあり、音色がスッと体に染み渡っていきます。
紐が優しくほどかれていくような旋律。色彩豊かに響く和音。ロマンティックに抒情的に語り掛けるメロディー。計算された各パートが程よいバランスで絡み合い、重なり合い、終盤に向けて徐々に感情が溢れ出す…。
この曲に限らず全体を通して感じたことですが、決して派手さが前面に出るのではなく、会場全体が優しく包み込まれ、体の隅々まで満たされるような空気感が常にありました。それは、高い技術のなせる業であることは勿論ですが、何よりも奏者の曲に対する深い慈愛そして情熱なのではと感じました。このバラードにはその全てが込められていて、演奏後はとても充実した感覚になりました。
盛大な拍手に包まれたのち演奏いただいたアンコール曲は「マズルカ 嬰ハ短調 Op.6-2」 「マズルカ 変ロ長調 Op.7-1」の2曲でした。最後まで心地よいリズムに包まれ、エヴァさんの演奏を通してショパンの芸術に触れることができました。
終演後はサイン会が行われ、興奮冷めやらぬ多くのお客様で列をなしていました。
まさに《芸術の秋》に相応しい演奏会。この上ない感動と幸せを思う存分味わえたひとときでした。
 
東関東・埼玉支店 埼玉ユニット
川越ブロック指導講師
清水織江


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