【インタビュー】中川優芽花さん(ピアニスト)に聴く

2024.11.199,321 views

ドイツで生まれ育ったピアニストである中川優芽花(ゆめか)さん。クララ・ハスキル国際ピアノコンクール(2021年)やロベルト・シューマン国際コンクール(2019年)での優勝など、キャリアを積み重ね、世界的にも注目を集める存在です。先日は日本でもリサイタルを開催し、その才能に多くの聴衆が衝撃を受けました。そんな中川さんのこれまでの学び、そしてShigeru Kawaiのピアノを使用するコンサートのお話をうかがいました。

ピアニスト 中川 優芽花

 

聞き手:長井進之介(音楽ライター)

 

―― 中川さんはどのようなきっかけでピアノを始めたのでしょうか?

 2歳上の姉がピアノを始めたのを真似して私も習い始めました。先生の言うことをとにかく聞かない生徒だったので(笑)、いつも先生や両親を困らせていました。

 

―― 小さい頃から“こう弾きたい”というのがあったのですね。ピアニストになるというのは早くから決めていたのですか?

 ピアノで頑張りたい、と思ったのは15歳くらいの頃でした。ある講習会に参加していたとき、最後にコンサートがあったのですが、私の演奏を聴いて海老彰子先生がお褒めくださったのです。「今後も楽しみ」というお言葉がとてもうれしくて…。その頃はちょうど周りと自分のレベルを比べて悩んでいた時期だったのですが、こんな素晴らしい先生があたたかいお言葉をくださるのだから、もっと頑張ってみようと決意しました。

 

―― そこで高校はロンドンのパーセル音楽院に進まれたのですね。

 その講習会で私が指導を受けたウィリアム・フォン先生に習いたかったのです。先生は大きな視点で楽曲を見ることができる方で、たくさんのレパートリーに挑戦させてくださいました。練習の仕方も変わり、コンクールにも積極的に挑戦するようになりましたね。

 

―― 現在はワイマールのフランツ・リスト音楽大学で学ばれています。

 現在師事しているグレゴリー・グルズマン先生に習いたかったのです。グルズマン先生にはデュッセルドルフでの講習会で指導を受けたことがあり、また2014年に参加した「若いピアニストのためのフランツ・リスト国際コンクール」でも審査員もされていたりと、何かとご縁がありました。また母からもきっとグルズマン先生に習うことでたくさんのことが学べるはずと言われたのも大きかったです。

 

―― 現在の中川さんの演奏やキャリアを見ますと、グルズマン先生のご指導は本当に中川さんにとって素晴らしいものをもたらしているようですね。

  はい、大きく成長できたと思います。知識量が膨大で、作曲家がどうしてこのような音を書いたのかということから一緒に考えてくださいますし、いい音を出すための効率的な身体の使い方も教えてくださいます。とにかく音に対して厳しく、“意味のない音を出さないように”といつも仰っています。

 

―― 2021年にはクララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝されていますが、このコンクールに挑戦しようと思われたきっかけなどはあるのでしょうか。

 何か具体的な目標があったわけではなく、ただ自分の音楽を深めていくために挑戦したいと思いました。この時期はグルズマン先生に習い始めて半年くらいの頃でしたし、まだ自分のなかで色々と変遷しているタイミングでもあったので、まさか賞をいただけるとは思ってもいませんでした。

 

―― 中川さんは多くのコンクールで素晴らしい成果を収めていらっしゃいますが、それはやはり音楽に対する誠実な姿勢が多くの人々の心を捉えているように感じます。先日(2024年9月11日)浜離宮朝日ホールでのリサイタルをお聴きして、中川さんの音色は本当にすべてが美しく、また言葉をもっているように語りかけてくるように感じました。

 本来、音楽というものは競うためのものではなく、聴いてくださる方に“よかった”と思っていただくためのものです。それはコンクールでも同じです。もちろん結果が出るものなので、挑戦する際にはそれを意識しないというのは難しいことですが、それに固執してしまうのではなく、自分自身が楽しい、幸せだと思える演奏をすることが大切だと考えています。それが最終的に結果にもつながるのではないでしょうか。

ピアニスト 中川 優芽花

 

―― これから日本でも中川さんの演奏をお聴きできる機会が増えてきますが、2025年1月10日と11日には富士山静岡交響楽団とのニューイヤー・コンサートがありますね。

 ショパンのピアノ協奏曲第1番を演奏します。第2番はクララ・ハスキル国際ピアノコンクールのファイナルで演奏したのですが、第1番を弾くのは初めてなのでとても楽しみです。ショパンは、中学生の頃ロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコースで学んでいたときにたくさん勉強した、大好きな作曲家でもあります。弾くたびに心動かされるものがありますね。

 

―― 当日のピアノはカワイの「Shigeru Kawai」が使用されます。

 ピアニストは会場ごとに違うピアノを弾くので、そこで自分の思い描く音を出せるかどうか、いつも悩みます。ただ、Shigeru Kawaiがあるときは「今日は上手くいく!」という確信のようなものが持てるのです。音に深みがあり、また出せる音の幅が大きいので、弾くときのアイディアがたくさん生まれてきます。色鉛筆に例えるなら、12色持っているか、24色持っているかで描けるものが違ってきますよね。また鍵盤のレスポンスがいいので、自分がどのようにハンマーを動かしているのかを感じやすいのも大きいですね。楽器とつながっているような感覚があります。今回のコンサートでは初めて披露する楽曲を演奏しますが、きっとShigeru Kawaiが助けてくれると思います。

▼ Shigeru Kawaiシリーズの特設サイト
ShigeruKawai特設サイト

 

―― キングインターナショナルからCDのリリースも決まっており、ますますのご活躍がとても楽しみですが、今後はどのように活動されていくご予定ですか?

 大学の卒業が近いので、そのあとの進学先を検討しているところです。もう少し勉強を続けながら、演奏活動を行っていきたいです。またモーツァルトのソナタを全曲弾きたいと思っており、現在少しずつレパートリーを増やしています。いつか皆様にお聴きいただけるよう、しっかり準備していきたいです。

 

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【Concert Information】

◆びわ湖ホール ジルヴェスター・コンサート 2024
2024.12/31(火)15:00 滋賀/びわ湖ホール 大ホール
阪哲朗(指揮)大阪交響楽団 他
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 op.16 他
びわ湖ホールチケットセンター 077-523-7136
https://www.biwako-hall.or.jp/performance/silvester2024

◆中川優芽花 ピアノリサイタル
 〈未来、その先に輝く~A PIACERE the Final 8~〉
2025.1/5(日)14:00 愛知/A PIACERE in 豊田
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第18番 ニ長調 K.576
シューベルト:さすらい人幻想曲 D760
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送」op.35
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調「幻想ソナタ」op.19
A PIACERE in 豊田 090-4233-3445
https://a-piacere.jp

◆グランシップ&静響ニューイヤーコンサート
2025.1/10(金)14:00/18:30 静岡/グランシップ 中ホール・大地
山下一史(指揮)富士山静岡交響楽団
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 他
グランシップチケットセンター 054-289-9000
https://www.shizukyo.or.jp/concert

◆浜松ニューイヤーコンサート
2025.1/11(土)13:30 静岡/サーラ音楽ホール
山下一史(指揮)
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 他
富士山静岡交響楽団 054-203-6578
https://www.shizukyo.or.jp/concert

◆第554回日経ミューズサロン 中川優芽花 ピアノ・リサイタル
2025.1/15(水)18:30 東京/日経ホール
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第18番 ニ長調 K.576
シューベルト:さすらい人幻想曲 D760
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調「葬送」op.35
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調「幻想ソナタ」op.19
日経公演事務局 03-5227-4227
https://art.nikkei.com/muse/20250115.html

◆2025都民芸術フェスティバル 東京都交響楽団
 〈オーケストラ・シリーズNo.56〉
2025.2/18(火)14:00 東京/すみだトリフォニーホール 大ホール
梅田俊明(指揮)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K.453 他
日本演奏連盟 03-3539-5131
https://www.jfm.or.jp/concert/2025/02/18.html

 

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Biography

中川優芽花 Yumeka Nakagawa

ドイツに生まれ育った日本人ピアニスト。2021年、スイスで開催された権威あるクララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝、および聴衆賞ほかも併せて受賞した。またデュッセルドルフで開催されたロベルト・シューマン国際コンクール(2019)、およびイェネ=タカーチ国際コンクール(2018)でも優勝しており、2014年にはワイマールで開催された「若いピアニストのためのフランツ・リスト国際コンクール」では第2位を受賞。

2014年にドイツの青少年音楽家コンクールで満点および第1位となったことでカール・ベヒシュタイン財団からの奨学金を獲得。ドイツ各地のホールからオファーを受け演奏するようになる。2019年以降ロンドンのウィグモア・ホール、デュッセルドルフのトーンハレ(ゾイ・ツォカヌー指揮デュッセルドルフ交響楽団と共演)、ワイマールハレ(マルクス・L・フランク指揮のイエナ・フィルハーモニー管弦楽団と共演)などで演奏している。最近では、サンクトペテルブルクで開催された第16回マリインスキー国際ピアノ・フェスティバルに招待された。現在ドイツ奨学金を得ている。

2022-23シーズンはクリスティアン・ツァハリアスが指揮するホーフ交響楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を、また同じくクリスティアン・ツァハリアスが指揮するポルト・カーザ・ダ・ムジカ管弦楽団とモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲KV365を演奏。また、クララ・ハスキル国際コンクールの開催地ヴヴェイでヴヴェイ・クラシック・フェスティバルに出演しリサイタルを行う。

2001年デュッセルドルフで生まれ、デュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽大学にてバーバラ・シュツェパンスカのもと音楽の教育を受け始め、ロンドンのパーセル音楽院ではウィリアム・フォンに学ぶ。2021年からワイマールのフランツ・リスト音楽大学においてグリゴリー・グルズマン教授のもと研鑽を積んでいる。

2022年3月の来日リサイタルは大絶賛を浴び、以後国内外のオケと共演を重ねている。

 

河合楽器製作所

ピアノ・電子ピアノといえばKAWAI
1927年創業の
鍵盤楽器メーカーです

これまで100年近くにわたり、世界各国にたくさんのピアノ・電子ピアノを届けてきました。
国際コンクールやコンサートなどでは、世界中の多くのピアニストにご愛用頂いております。
「音楽を通じて、感動を共に分かち合いたい」
これは、永きにわたる楽器づくりの歴史から生まれたKAWAIの想いです。

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