ピアノを弾く人に伝えたい Shigeru Kawaiの魅力

2026.02.13404 views

この記事は、ONTOMO MOOK ムジカノーヴァ・シリーズ 徹底解説 チェルニー30番の弾き方 教え方(音楽之友社 2025年12月発行)に掲載された記事を転載したものです。

河合楽器製作所の調律師 萩尾啓介(はぎお けいすけ)さんにきく

取材・文 東ゆか

写真 ヒダキトモコ

2025年10月に開催されたショパン国際ピアノコンクールでも、他メーカーに負けない活躍を見せたカワイのグランドピアノShigeru Kawai(以下SK)。国内外を問わず多くのコンテスタントの使用楽器となるなど、国際的にますますその存在感を高めている。

株式会社河合楽器製作所の調律師・萩尾啓介さんは、工場での製造経験やカワイ表参道での販売経験もあり、長きにわたって様々な角度からSKと関わってきた。SKの魅力について萩尾さんに語っていただいた。

グランドピアノShigeru Kawai

海外から国内へ評価が広がったピアニッシモの音色

「SKの一番の魅力はピアニッシモの音色が出せるピアノだということです。ただ〝弱い〟のではなく、〝ピアニッシモの音色であること〟が、特にヨーロッパでは日本に先駆けて求められていました。SKはそういった要望に応えるピアノとしてヨーロッパで評価を得ることができました」

海外でピアニッシモの音色美の価値観を教育されたピアニストたちが帰国し、彼らのニーズにかなうピアノとして求められたのがSK。いわば逆輸入的のような形でその評判が、国内に広がっていった。

「なぜピアニッシモの音色を作れるのかというと、鍵盤が完全に下まで落ちる前に抵抗感があるからです。この抵抗感がコントロールされたピアニッシモを生み出すのです」

その打鍵感は決して重い印象を与えない。新素材のカーボンファイバー入り樹脂素材を使用しているアクションは、ピアニストのタッチや連打性に正確に応えることができ、軽いけれど適切な抵抗感を生み出しているのだ。

グランドピアノShigeru Kawai

演奏者によって驚くほど変化する音色

 次に萩尾さんが挙げたSKの特長は、演奏者によって異なる音色が引き出されるということ。2025年のショパン国際ピアノコンクールの1次予選ではワン・ズートンとヤン・ヴィドラシュが立て続けにSKで演奏し、その音色が同じ楽器とは思えないほどに異なって聴こえたことも記憶に新しい。

「たくさんの方が出演されるジョイントコンサートや、小さいお子さんが出演されるピアノ教室の発表会でも、演奏される方によって音色が異なって聴こえることに驚きます。それは弾く方のタッチとSKがぴったりマッチした瞬間。そんな演奏に出会えることはSK調律師の冥利につきます」

萩尾さんを喜ばせる瞬間はまだまだある。室内楽やピアノコンチェルトが演奏される場所では、他の楽器の奏者からSKの音色を褒められることが少なくないのだという。

「SKは発音してから響きが広がる特性があります。それが弦楽器のボウイングによる発音と相性が良いのです。SKは合わせやすいピアノだというお声をいただきます。ピアノコンチェルトでもオーケストラの方から『素晴らしい楽器ですね』とわざわざお声がけいただけて光栄です」

SKを美しく響かせるために、萩尾さんはどのようなことを大切にしながら調整を行っているのだろうか。

「楽器に無理をさせないことを心がけています。自然体な楽器はどんな曲を演奏しても美しく響きます。製造工場で何百台というSKを見ていた経験から、ピアノがなりたがっている姿が見えてくるので、それに近づけるように調整を行います」

グランドピアノShigeru Kawai 鍵盤内部

ピアノの鍵盤を引き出し、よく観察すると、鍵盤、アクション、ハンマーはシーソーのように相互が干渉し合う繊細な箇所だということが分かる。つまりコンマ数ミリの調整の違いで、ハンマーへかかる負担が大きく変わるのだ。

「違和感を察し、どんな状態がこのピアノにとって自然体なのかを判断します。とても感覚的なことなので、言葉で表現するのは難しいのですが、それは調律師や技術師が持ち合わせている感覚なのです」

グランドピアノShigeru Kawai特設サイト
(バナークリック)

調律師はピアノを弾く人のお医者さん

楽器との対話が終わった後、次に萩尾さんが向き合うのはピアノの持ち主だ。調律師はピアノのお医者さんといわれているが、本当はピアノを弾く人のお医者さんなのではないかと萩尾さんは話す。持ち主の希望をよく聞き、タッチ、音色の好み、日頃どんな曲を演奏するかをヒアリングし、その人の好みに合わせた調整を施す。

第19回ショパン国際ピアノコンクール第3位入賞者
ワン・ズートン氏
(入賞後インタビューはこちらから

「SKが他のメーカーと大きく違うことの一つに、こう調整しなければならないという決まりがないことだと私は思っています。後輩の技術者や調律師に向けて、『こういう調整を行ってもピアノはとても良くなるんですよ』という新しい可能性を提示しています」

調律師が柔らかい音、硬い音、迫力のある音といったリクエストに合わせて調整を施すと、SKはそのすべてに応えてくれる。それこそがカワイの調律師にとっての誇りであり、SKの強みだと萩尾さんは語る。萩尾さんがカワイに就職した2003年当時は、まだ現在ほどSKは普及しておらず、海外での認知度も低かった。しかし現在、SKの愛用者や設置する施設は増えている。これは開発にとって良いスパイラルだと萩尾さんは期待に胸を膨らませる。

「SKのさらなる進化のために、これまでの伝統に新しい意見を取り入れながら、今も研究開発が進められています。SKを弾いてくださる方々が増えるということは、フィードバックが増えるということ。今後の開発の追い風になります」

今後、SKの音色がますます多くの人々を魅了することだろう。

カワイ表参道でSKの音色の調整に取り組む萩尾さん

MPA:萩尾啓介

◆掲載書籍のご案内
ONTOMO MOOK
ムジカノーヴァ・シリーズ
徹底解説 チェルニー30番の弾き方教え方
定価 1,870円 (本体1,700円+税)
発行年月  2025年12月

書籍詳細及びご購入はこちらへ
https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=963810

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