およそ100年にわたり、KAWAIは伝統的な職人技と先進技術を融合させながら、ピアノづくりの歩みを重ねてきました。しかし、どのような偉大な歴史にも、その始まりにはひとつの“原点”があります。
このたびKAWAIの歴史を象徴する新たな映像作品として、創業者・河合小市の人生を描いたアニメーション短編を公開しました。美しい映像表現と、社内制作によるオリジナル楽曲を通して描かれるのは、KAWAIというブランドの礎がどのように築かれていったのか、その物語です。
本記事では、映像の印象的なシーンとともに、その背景にある歴史や時代性をひもときながら、河合小市の歩みをより深くご紹介します。
心を動かした始まりの出会い
楽器づくりへの目覚め(1897年)
19世紀終わり頃の浜松の街並み
物語の舞台は、19世紀の終わり頃の浜松。
現在では「音楽のまち」として世界に知られる浜松ですが、1897年当時、その文化の礎はまだ芽吹き始めたばかりでした。アニメーションに登場する幼い河合小市は、機械やものづくりに特別な才能を持つ少年として描かれています。
そんな彼の運命を大きく変えたのが、一台の鍵盤楽器との出会いでした。映像の中で彼が見つめるのは、当時のリードオルガン。その音と構造に心を奪われた瞬間、小市の中に、楽器を「つくる」という人生の情熱が灯ります。
ただ機械を組み立てるのではなく、人の心を響かせる楽器を生み出したい。その想いこそが、KAWAIの原点となりました。
幼い小市がリードオルガンを見つめるシーン
日本のピアノづくりを切り拓く
国産第一号アクションの完成(1907年)
同僚の前でアイデアを披露する若き小市
成長した小市は、日本のピアノ研究開発において中心的な存在となっていきます。20世紀初頭、日本で西洋楽器を製造するには、まだ多くの部品を海外に頼らざるを得ない時代でした。
木材にカンナをかける若き小市
その中で小市が成し遂げたのが、1907年、日本で初めてとなる純国産ピアノアクションの完成です。映像では、木を丁寧に削り、設計図を描き、仲間たちと議論を重ねる姿が印象的に描かれます。それは単なる技術開発ではなく、日本のものづくりの可能性を押し広げる挑戦でもありました。河合小市は、技術者であると同時に、日本のピアノ文化を切り拓いた開拓者でもあったのです。
新たな道を切り拓いて
河合楽器研究所の創設(1927年)
若き小市とその師匠
映像の中で、年を重ねた小市が静かに墓前に立つ場面があります。それは恩師であり、かつての師を失った悲しみを象徴するシーンでありながら、同時に新たな決意の瞬間でもあります。
師匠の墓前に佇む小市
世界に誇れるピアノを自らの手で生み出したい――。
その強い想いを胸に、河合小市は1927年、7人の職人とともに河合楽器研究所を創設しました。
リーダーとして前に立ちながらも、現場で手を動かし続けるその姿勢は、今日に受け継がれるKAWAIのものづくり精神そのものです。
河合楽器研究所の看板を作成
1927年に河合楽器研究所として創業
受け継がれる革新の精神
次世代へつながる意志
同僚と切磋琢磨する小市
河合小市のたゆまぬ探求は、やがて大きな評価を受けます。
1953年には、音楽業界で初となる藍綬褒章を受章。その功績は、日本の楽器づくりの歴史に確かな足跡を残しました。


藍綬褒章を受賞する小市
映像の終盤では、ピアノに向かう小市の姿から、2代目社長・河合滋へと場面が移り変わります。
この演出が象徴するのは、単なる事業承継ではありません。
音へのこだわり、技術への探究心、そして未来へ挑み続ける意志。河合小市の精神は、世代を超えて受け継がれていきます。
音で受け継ぐ、ものづくりの精神
河合小市の記憶に寄り添うオリジナル楽曲
グランドピアノの前で祝福される小市
この作品に流れる音楽もまた、映像と同じように、KAWAIの歴史に深く根ざしたものです。本作のオリジナルスコアを手がけたのは、KAWAIの若手社員。
創業者・河合小市の物語を描くにあたり、映像に寄り添うだけでなく、その精神を音でどう表現するかを丁寧に追求して制作されました。楽曲の核となっているのは、河合小市にまつわるひとつの言い伝えです。
かつて小市は、完成したピアノの最終確認を自ら行っていたと伝えられています。その検査は非常に厳しく、工場の技術者たちは、固唾をのんでその結果を見守っていました。
そして、すべてに納得したとき、小市はそのピアノで、好んでいた「越後獅子」のフレーズを奏でたといいます。その音が工場に響くと、技術者たちはようやく胸をなで下ろした――。
品質への厳しいこだわりと、それを乗り越えた安堵がひとつの旋律に託されたこの逸話は、KAWAIのものづくり精神を象徴する物語として今も語り継がれています。
本作のテーマは、このエピソードに着想を得て、越後獅子へのオマージュとして構成されています。
作品全体を通して主題の統一性を持たせながら、越後獅子の旋律を核に据え、場面に応じてよりその趣を深めた変奏として再現される構成としました。
引用のモチーフとして着目したのは、プッチーニ《蝶々夫人》第一幕第一場。蝶々夫人が芸者となった経緯を語る場面に現れる越後獅子のフレーズで、歌とピアノを同時に成立させられるこの箇所こそ、河合小市が実際に奏でていた情景を想起させるものとして採り入れています。
作品全体としては、小市のひたむきな姿勢と、ものづくりへの情熱を重ね合わせ、温かさとやさしさをたたえた音楽を目指しました。
ピアノ音源には、SK-EXをサンプリングしたソフトウェア音源「PIANO PREMIER “KAWAI LEGEND”」 を使用。KAWAIの最高峰の響きを通して、創業者が最後に耳を澄ませた一音の記憶を、現代の映像作品として丁寧に描き出しています。
アニメーション本編はこちら
河合小市の軌跡をめぐるアニメーション体験。世界へ広がる響きの原点を、あなたに。
河合楽器製作所コーポレートサイト:https://www.kawai.co.jp/
Shigeru Kawaiブランドサイト:https://www.shigerukawai.jp/






